「M&Aを検討しているが、本当に進めて大丈夫だろうか」「成功報酬型の仲介会社を選べば安心なのか」と悩む経営者は少なくありません。後継者不足や事業拡大の手段としてM&Aが注目される一方で、実は日本企業のM&A成功率は3割程度ともいわれ、多くの企業が期待した成果を得られていないのが現実です。
本記事では、M&Aをやめた方がいいケースや成功報酬型仲介会社の意外な落とし穴、そして後悔しないための判断基準について詳しく解説します。会社売却や事業承継を検討中の経営者の方は、ぜひ最後までお読みください。
M&Aをやめた方がいいケースとは

M&Aは事業承継や経営課題の解決手段として有効ですが、すべての企業に適しているわけではありません。以下のようなケースでは、M&Aを慎重に検討するか、場合によっては見送った方がよい場合もあります。
目的や出口戦略が明確でない場合
M&Aの目的が曖昧なまま進めてしまうと、相手企業の選定基準が定まらず、成約後の経営統合でも方向性を見失いやすくなります。「とりあえず売れそうだから売る」「買い手が見つかったから進める」といった受動的な姿勢では、M&A後に「こんなはずではなかった」という後悔につながりかねません。
売り手側であれば「なぜ会社を手放すのか」「従業員の雇用をどうしたいのか」「売却後に自分はどうするのか」といった点を、買い手側であれば「なぜその企業を買収するのか」「どのようなシナジー効果を期待するのか」「買収後の経営体制をどうするのか」といった点を明確にしておく必要があります。
デューデリジェンスを十分に実施できない場合
デューデリジェンスとは、M&A実施前に対象企業の財務、税務、法務、労務などを精密に調査することです。買収側がコスト削減のためにデューデリジェンスを省略したり、自社スタッフだけで実施したりすると、簿外債務や訴訟リスク、コンプライアンス問題などを見落とす危険性が高まります。
過去には、デューデリジェンス不足が原因で買収後に粉飾決算や不正会計が発覚し、買い手企業が経営破綻に追い込まれた事例も存在します。専門家に依頼する費用を惜しんだ結果、それ以上の損失を被ることになっては本末転倒といえるでしょう。
従業員や取引先への影響を考慮していない場合
M&Aは経営陣の判断で進められることが多く、従業員の意向が反映されることはほとんどありません。しかし、従業員は会社の重要な資産であり、M&Aへの不安から優秀な人材が流出してしまえば、買収の意味が大きく損なわれます。
また、取引先との関係も重要な検討事項です。特定の買い手企業との取引を望まない取引先がいる場合、M&A後に契約を打ち切られる可能性もあります。従業員や取引先への影響を十分に考慮せずにM&Aを進めると、シナジー効果どころか事業基盤そのものが揺らぐリスクがあるのです。
適切な買い手または売り手が見つからない場合
M&Aは相手あっての取引であり、条件が合わなければ無理に進める必要はありません。売り手側で「とにかく早く売りたい」という焦りがあると、不当に低い価格で売却してしまったり、従業員の待遇が保証されない契約を結んでしまったりする危険があります。
買い手側でも「どうしてもこの会社を買いたい」という執着から、相場以上の高値で買収してしまい、投資対効果が見合わなくなるケースが少なくありません。適切な相手が見つかるまで待つ選択肢も視野に入れておくべきでしょう。
成功報酬型のM&A仲介会社とは

M&A仲介会社を利用する際、手数料体系は重要な検討事項の一つです。なかでも「完全成功報酬型」を謳う仲介会社が増えていますが、その仕組みとメリット・デメリットを正しく理解しておきましょう。
完全成功報酬型の仕組み
完全成功報酬型とは、M&Aが成約した場合にのみ手数料が発生する料金体系です。着手金、中間金、月額報酬などの初期費用が不要で、M&Aが不成立に終わっても費用負担がないため、依頼者にとってリスクが低いとされています。
一般的なM&A仲介会社の手数料体系と比較すると、以下のような違いがあります。
一般的な手数料体系の内訳
着手金は、M&A仲介会社と正式に契約を締結した際に支払う費用で、相場は50万円から200万円程度です。中間金は、基本合意書を締結した段階で支払う費用で、成功報酬の10パーセントから20パーセント程度が一般的とされています。月額報酬(リテイナーフィー)は、契約期間中に毎月支払う顧問料のような費用で、月額30万円から100万円程度が相場です。成功報酬は、M&Aが成立した際に支払う費用で、多くの場合「レーマン方式」と呼ばれる計算方法で算出されます。
完全成功報酬型では、このうち成功報酬のみが発生するため、M&Aが成約しなければ一切費用がかからない点が大きな特徴といえます。
レーマン方式による成功報酬の計算
M&Aの成功報酬は、多くの仲介会社で「レーマン方式」という計算方法が採用されています。取引金額に応じた料率を掛け合わせて算出する仕組みで、取引規模が大きくなるほど料率が下がる段階式になっているのが一般的です。
標準的なレーマン方式の料率は、取引金額5億円以下の部分に5パーセント、5億円超10億円以下の部分に4パーセント、10億円超50億円以下の部分に3パーセント、50億円超100億円以下の部分に2パーセント、100億円超の部分に1パーセントを適用します。
ただし、計算の基準となる金額の定義は仲介会社によって異なります。「譲渡対価(株式価額)」を基準とする会社もあれば、「企業価値(株式価額+有利子負債)」や「移動総資産(株式価額+負債総額)」を基準とする会社もあり、同じ案件でも手数料額に大きな差が生じることがあります。
また、小規模案件では最低報酬額が設定されていることが多く、相場は500万円から2500万円程度と幅があります。取引金額に対する手数料の割合が5パーセントを超えることも珍しくないため、事前に必ず確認しておきましょう。
成功報酬型の意外な落とし穴

完全成功報酬型は依頼者にとってメリットが多いように見えますが、仕組みをよく理解していないと思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。
強引な成約を迫られるリスク
完全成功報酬型の仲介会社は、M&Aが成約しなければ1円も報酬を得られません。時間と労力をかけて仲介業務を行ったにもかかわらず、最終的に破談となれば大きな損失となります。
このビジネスモデルの性質上、一部の仲介会社では「何としても成約させたい」というインセンティブが強く働き、依頼者にとって不利な条件でも成約を強く勧めてくるケースがあります。特に売り手側は、M&Aが一度きりの取引となることが多いのに対し、買い手側は継続的に買収を行う可能性があるため、仲介会社が買い手有利に交渉を進める傾向も指摘されています。
案件が後回しにされる可能性
成約しなければ報酬が発生しない以上、仲介会社としては成約確率の高い案件を優先したいと考えるのは自然なことです。複数の案件を抱える仲介会社では、成約の見込みが薄いと判断された案件は後回しにされ、積極的なサポートを受けられない可能性があります。
特に、ニッチな業界のM&Aや、買い手の選定が難しい案件、小規模で報酬額が低い案件などは、仲介会社にとって「手間がかかるわりに利益が出にくい」案件と見なされがちです。完全成功報酬型だからといって、必ずしも熱心なサポートを受けられるとは限らない点に注意が必要でしょう。
最低報酬額の存在
完全成功報酬型を謳っていても、多くの仲介会社では最低報酬額が設定されています。たとえば最低報酬が2000万円に設定されている場合、レーマン方式で計算した成功報酬が1000万円であっても、実際に支払う金額は2000万円となります。
小規模なM&A案件ほど、この最低報酬額が取引全体に占める割合が高くなり、「成功報酬型なのに手数料が割高」という状況になりかねません。契約前に最低報酬額の有無と金額を必ず確認し、自社の案件規模に見合った仲介会社を選ぶことが重要です。
成功報酬額が高く設定されるケース
着手金や中間金を徴収しない完全成功報酬型の仲介会社は、収益源が成功報酬のみとなるため、その分成功報酬の料率や最低報酬額を高めに設定しているケースがあります。
一見すると初期費用がかからない分お得に見えても、トータルで見ると着手金や中間金がある仲介会社と変わらない、あるいはそれ以上の費用がかかることもあるのです。複数の仲介会社から見積もりを取り、自社の案件規模でのトータルコストを比較検討することをお勧めします。
M&Aで買収された会社の社員はどうなるのか

M&Aを検討する経営者にとって、従業員の処遇は大きな関心事です。実際、買収された会社の社員にはどのような変化が起こりうるのでしょうか。
雇用は基本的に維持される
M&Aの手法によって異なりますが、株式譲渡の場合、会社と従業員の雇用契約関係はそのまま引き継がれます。株式譲渡はあくまで株主が変わるだけであり、会社の法人格は変わらないため、従業員を一方的に解雇することは基本的にできません。
事業譲渡の場合も、譲渡対象事業に従事していた従業員を引き継ぐことが一般的です。ただし、事業譲渡では個別に雇用契約を結び直す必要があるため、労働条件が変更される可能性があります。いずれの場合も、M&Aのみを理由として従業員を解雇することは難しく、雇用は基本的に維持されると考えてよいでしょう。
給与や待遇が変わる可能性
雇用は維持されるものの、給与や待遇については変更される可能性があります。買収企業の人事制度や給与体系に統合される過程で、給与規定や退職金制度が見直されることは珍しくありません。
同じ企業グループ内で労働条件に大きな差がある場合、条件を統一する方向に動くことが多いため、買収された企業の労働条件が買収企業より悪かった場合は待遇が改善される可能性もあります。一方で、能力が十分でないと評価された社員は、以前より待遇が悪化するケースもありえます。
経営陣の処遇は大きく変わる
一般社員と比べて、経営陣の処遇は大きく変わることが多いといえます。社長については、買収企業の判断により退任を求められるケースもあれば、引き継ぎのために一定期間(ロックアップ期間)会長や顧問として残るよう求められるケースもあります。
役員についても、株主総会で新役員が選任されることが一般的で、買収前の役員が続投できる保証はありません。役員報酬や退職金に関しても、株主総会の決議によって変更される可能性があるため、M&A契約時に処遇を明確にしておくことが重要です。
PMIの成否が社員の将来を左右する
M&A成立後に行われる経営統合プロセス(PMI)の成否が、買収された会社の社員の将来を大きく左右します。人事制度の統合、組織再編、システムの統合など、PMIには多くの課題があり、これがうまくいかないと社員のモチベーション低下や離職につながります。
買収企業と買収された企業の企業文化や業務プロセスが大きく異なる場合、統合に時間がかかることも珍しくありません。PMIを軽視したM&Aは、人材流出やシナジー効果の不発という形で失敗に終わりやすいため、M&A検討段階からPMIの計画を立てておくことが望ましいでしょう。
M&A仲介会社を選ぶ際の注意点

M&Aの成否は、仲介会社の選定にも大きく左右されます。失敗しない仲介会社選びのポイントを押さえておきましょう。
得意分野と実績を確認する
M&A仲介会社によって、得意とする業種、地域、案件規模は異なります。自社と同じ業界、同程度の規模でのM&A実績があるかどうかを確認することが重要です。
たとえば、飲食店のM&Aを検討しているのに、IT企業専門の仲介会社に依頼しても、業界特有の商慣習やリスクを十分に理解してもらえない可能性があります。自社の業界に知見のある仲介会社を選ぶことで、企業の魅力を適切に評価してもらい、買い手候補にも正確に伝えてもらえる可能性が高まります。
手数料体系を詳細に確認する
完全成功報酬型かどうかだけでなく、手数料体系の詳細を確認することが重要です。具体的には、レーマン方式の計算基準(譲渡対価、企業価値、移動総資産のいずれか)、最低報酬額の有無と金額、中間金の有無、追加費用の有無などを確認しましょう。
「完全成功報酬型」と謳いながら、実際には中間金を徴収する仲介会社も存在するため、契約前に書面で確認することをお勧めします。複数の仲介会社に相談し、自社の案件規模でのトータルコストを比較検討するのも有効な方法です。
担当者との相性を見極める
M&Aは数カ月から1年以上かかることも珍しくなく、その間、担当者と密接にコミュニケーションを取ることになります。担当者の経験や専門性だけでなく、相性も重要な選定基準といえるでしょう。
初回相談の段階で、担当者の対応が誠実か、質問に的確に答えてくれるか、自社の意向をきちんと汲み取ってくれるかなどを確認しておくとよいでしょう。大手仲介会社であっても担当者の能力や経験にはバラつきがあるため、会社の知名度だけで判断しないことが大切です。
契約内容をよく確認する
仲介会社との契約書には、業務範囲、報酬体系、契約期間、解約条件などが記載されています。特に以下の点は事前に確認しておきましょう。
まず、専任条項の有無と内容です。専任契約を結ぶと、その仲介会社にしか依頼できなくなるため、慎重な判断が必要です。次に、契約期間と自動更新の条件を確認します。M&Aは長期化することもあるため、契約期間が適切か確認しておきましょう。また、中途解約の条件と違約金についても把握しておく必要があります。やむを得ず解約する場合の条件や違約金の有無を確認することで、後々のトラブルを防げます。
M&A支援機関登録制度を活用する
中小企業庁では、M&A支援機関の登録制度を設けており、登録された支援機関は手数料体系などの情報を公表しています。登録機関であれば一定の基準を満たしていることが保証されるため、仲介会社選びの参考になるでしょう。
また、M&A仲介協会では、悪質な買い手情報を会員間で共有する「特定事業者リスト」を運用するなど、安全なM&A取引のための取り組みが進められています。こうした制度や業界団体の取り組みも、仲介会社選びの判断材料として活用できます。
M&Aで失敗しないために押さえるべきポイント

M&Aを成功に導くためには、いくつかの重要なポイントがあります。失敗事例から学び、同じ轍を踏まないようにしましょう。
目的と優先順位を明確にする
M&Aの目的を明確にし、何を最も重視するのか優先順位をつけておくことが重要です。売却価格なのか、従業員の雇用維持なのか、事業の継続発展なのか、目的によって選ぶべき相手や交渉の進め方が変わってきます。
目的が曖昧なままM&Aを進めると、交渉の過程で方針がブレやすく、結果的に当初期待していた成果が得られないことになりかねません。「なぜM&Aをするのか」を自問自答し、関係者間で共有しておくことが成功への第一歩です。
十分な準備期間を確保する
M&Aは急いで進めようとすると、様々なリスクを見落としやすくなります。売り手側であれば、株主名簿の整備、決算書類の整理、従業員への説明タイミングの検討など、事前に準備すべきことは多岐にわたります。
準備不足のままM&Aを進めると、交渉の途中で株式の整備不足が発覚して信用を失ったり、適切なタイミングで従業員に説明できず離職者が続出したりといった問題が起こりえます。少なくとも数カ月から1年程度の準備期間を見込んでおくとよいでしょう。
デューデリジェンスを徹底する
買い手側にとって、デューデリジェンスはM&Aの成否を左右する重要なプロセスです。財務、税務、法務、労務、IT、ビジネス(事業)など、多角的な観点から対象企業を調査することで、リスクを事前に把握し、適切な買収価格を算定できます。
デューデリジェンスには弁護士や公認会計士、税理士などの専門家を起用するのが一般的です。費用を惜しんで自社スタッフだけで実施すると、重大なリスクを見落とす可能性があるため、専門家への依頼を検討すべきでしょう。
適切な企業価値評価を行う
M&Aにおける買収価格は、企業価値評価(バリュエーション)をもとに交渉されます。売り手側は自社を過大評価しがちであり、買い手側は過小評価しがちであるため、第三者による客観的な評価が重要になります。
企業価値の算定方法には、コストアプローチ(純資産をベースに算定)、インカムアプローチ(将来の収益やキャッシュフローをベースに算定)、マーケットアプローチ(類似企業の株価や取引事例をベースに算定)などがあり、複数の方法を組み合わせて評価するのが一般的です。
情報管理を徹底する
M&Aにおいて、情報漏洩は致命的なダメージをもたらします。交渉中に情報が外部に漏れると、M&Aが破談になるだけでなく、取引先や従業員に不安を与え、インサイダー取引の疑いをかけられる可能性もあります。
秘密保持契約を締結するのはもちろん、社内でも情報を知る人を最小限に絞り、従業員への説明タイミングも慎重に検討する必要があります。「M&Aは秘密保持に始まり、秘密保持に終わる」といわれるほど、情報管理は重要なポイントなのです。
PMIを見据えた計画を立てる
M&Aは成約がゴールではなく、その後のPMI(経営統合プロセス)を成功させて初めて目的を達成したといえます。人事制度や業務プロセス、ITシステムの統合、企業文化の融合など、PMIには多くの課題があり、これを軽視するとシナジー効果を得られないばかりか、優秀な人材の流出につながりかねません。
M&A成約後に慌ててPMI計画を立てるのではなく、検討段階からどのように統合を進めるかを具体的にイメージしておくことが重要です。買い手側は、買収後の経営体制や人材活用方針を事前に検討し、売り手側もそれを確認した上でM&Aに臨むべきでしょう。
まとめ

M&Aは事業承継や経営課題の解決に有効な手段ですが、すべてのケースに適しているわけではありません。目的が不明確な場合、十分なデューデリジェンスができない場合、従業員や取引先への影響を考慮していない場合などは、M&Aを慎重に検討するか見送った方がよいケースもあります。
成功報酬型のM&A仲介会社は初期費用がかからないメリットがある一方で、強引な成約を迫られるリスク、案件が後回しにされる可能性、最低報酬額の存在など、意外な落とし穴も存在します。完全成功報酬型だからといって安心せず、手数料体系の詳細を確認し、複数の仲介会社を比較検討することが重要です。
M&Aで買収された会社の社員は、基本的に雇用は維持されますが、給与や待遇が変更される可能性はあります。特に経営陣の処遇は大きく変わることが多いため、M&A契約時に明確にしておくことが望ましいでしょう。
M&Aを成功に導くためには、目的の明確化、十分な準備期間の確保、デューデリジェンスの徹底、適切な企業価値評価、情報管理の徹底、PMIを見据えた計画立案が重要です。これらのポイントを押さえ、信頼できる専門家のサポートを受けながらM&Aを進めることで、後悔のない意思決定ができるはずです。
M&Aは会社の未来を左右する重大な決断です。「やめた方がいい」かどうかは状況によって異なりますが、十分な情報収集と検討を行い、納得のいく判断をしていただければ幸いです。



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