会社売却やM&Aを進める中で、「やはり売却を見送りたい」「一旦停止して検討し直したい」と考える経営者は少なくありません。譲渡価格への不満、デューデリジェンスへの抵抗感、買い手との方向性の相違など、売却を中止したくなる理由はさまざまでしょう。
しかし、M&Aプロセスのどの段階にいるかによって、キャンセルの可否や発生するリスクは大きく異なります。
本記事では、会社売却の見送りや一旦停止を検討している経営者に向けて、手続きの段階ごとの対処法や注意点、そして再開を見据えた戦略的なアプローチを詳しく解説していきます。
会社売却を見送りたい・一旦停止したいと考える主な理由

会社売却のプロセスを進める中で、経営者が「やはりやめたい」と感じるケースは珍しいことではありません。その背景にはさまざまな要因が存在しており、売却を中止するかどうかを判断するためには、まず自身の状況を客観的に整理することが重要となります。
譲渡価格への不満
会社売却を見送りたいと考える最も多い理由が、譲渡価格への不満です。経営者自身が想定していた金額と、買い手側から提示された金額との間に大きな乖離がある場合、売却への意欲が急速に低下することがあります。
特に、長年にわたって築き上げてきた事業への愛着や、苦労して積み重ねた実績に対する評価が低いと感じた際には、「この金額では売りたくない」という感情が強くなるものです。また、デューデリジェンス(買収監査)の結果、当初の想定よりも低い評価額が提示されるケースも少なくありません。
デューデリジェンスへの抵抗感
M&Aのプロセスでは、買い手側が売り手企業の財務状況や法務リスク、事業内容などを詳細に調査するデューデリジェンスが実施されます。経営者によっては、会社の隅々まで調べられることに対して強い抵抗感を覚える方もいらっしゃいます。
「ここまで詳しく調べられるとは思わなかった」「社内の問題点を指摘され続けて精神的に辛い」といった声は、M&A仲介の現場でもよく聞かれるものです。デューデリジェンスは買い手にとって必要不可欠なプロセスですが、売り手にとっては負担の大きい作業でもあります。
買い手との方向性の相違
売却先として検討していた買い手との間で、今後の事業方針や従業員の処遇について考え方が合わないと判明した場合も、売却を見送る理由となり得ます。「従業員を大切にしてほしい」「地域に根差した事業を続けてほしい」といった売り手側の希望が、買い手の戦略と一致しないケースは実際に存在します。
特に、長年にわたって従業員とともに会社を育ててきた経営者にとっては、売却後の従業員の処遇は非常に重要な関心事でしょう。買い手企業の方針によっては、リストラや事業再編が行われる可能性があり、そうした将来像を受け入れられないと感じることもあります。
条件交渉での不信感
M&Aの交渉過程において、「最初に聞いていた話と違う」「途中から条件が変わってきた」という不信感から売却を中止したくなるケースも存在します。買い手側やM&A仲介会社とのコミュニケーションにおいて、情報の行き違いや認識のずれが生じることは決して珍しくありません。
当初提示された条件が徐々に変更されていったり、想定外の要求が追加されたりすることで、「このまま進めても良いのだろうか」という疑念が生まれることがあります。特に、M&Aの経験が少ない経営者にとっては、複雑な交渉プロセスの中で不安を感じやすい傾向にあります。
家族や関係者からの反対
会社売却に対して、家族や親族、あるいは古くからの取引先や金融機関から反対意見が出されることもあります。特に、同族経営の会社では、親族間の意見調整が難航するケースが少なくありません。
「先代から受け継いだ会社を手放すことに抵抗がある」「家業を外部に売却することへの批判が怖い」といった心理的なハードルが、売却見送りの一因となることがあります。また、長年の付き合いがある取引先から「売却されると取引条件が変わるのではないか」と懸念を示されるケースもあるでしょう。
経営環境や業績の好転
売却を検討し始めた当初は業績不振や後継者問題を抱えていたものの、その後の経営努力や市場環境の変化によって状況が好転した場合、売却の必要性自体が薄れることがあります。
「最近になって業績が回復してきた」「新しい事業が軌道に乗り始めた」「後継者候補が現れた」など、状況の変化によって売却よりも事業継続を選択したくなることは自然な判断といえるでしょう。
会社売却を見送り・一旦停止できるタイミングと手続き

会社売却のプロセスにおいて、見送りや一旦停止が可能かどうかは、現在どの段階にいるかによって大きく異なります。各段階における対応方法と注意点を理解しておくことで、適切な判断ができるようになります。
初期相談・アドバイザー選定段階の場合
M&A仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)との初期相談段階であれば、売却を見送ることは基本的に自由に行えます。この段階では正式な契約を締結していないケースが多く、法的な拘束力はほとんど発生していない状態です。
ただし、アドバイザーとの間ですでに秘密保持契約(NDA)を締結している場合は、その契約内容に沿った対応が必要となります。多くの場合、秘密保持契約自体は売却を義務付けるものではないため、見送りの判断そのものには影響しません。
アドバイザリー契約締結後の場合
M&A仲介会社やFAとアドバイザリー契約(仲介契約)を締結している場合は、契約内容の確認が重要となります。契約期間や解約条件、違約金の有無などを把握した上で、適切な手続きを踏む必要があります。
多くのアドバイザリー契約には、一定の契約期間が定められています。期間満了をもって契約を終了させれば、違約金が発生しないケースが一般的でしょう。一方、契約期間中に中途解約を行う場合は、契約書に定められた解約手続きに従う必要があり、場合によっては着手金の返還が受けられなかったり、実費精算を求められたりすることがあります。
また、専任契約を締結している場合は、契約期間中に他のアドバイザーへ依頼することや、自己発見取引(自分で買い手を見つけて契約すること)が制限されている可能性もあるため、注意が必要です。
買い手候補との接触・交渉段階の場合
すでに買い手候補との間でノンネームシート(匿名の企業概要書)の開示や面談が行われている場合でも、正式な契約書を締結していなければ、売却を見送ることは法的には可能です。
ただし、買い手候補がすでに相当の時間と労力をかけて検討を進めている場合、一方的なキャンセルは信頼関係を損なう恐れがあります。M&A業界は意外と狭い世界であり、将来的に再度売却を検討する際に、過去の対応が影響を及ぼす可能性も否定できません。
誠実なコミュニケーションを心がけ、見送りの理由を丁寧に説明することで、良好な関係を維持しながらプロセスを中断することが望ましいといえるでしょう。
意向表明書(LOI)受領後の場合
買い手から意向表明書(Letter of Intent、LOI)を受領している段階では、買い手側の本格的な検討が進んでいることを意味しています。意向表明書自体は法的拘束力を持たないことが一般的ですが、この段階での見送りは、買い手との関係性において慎重な対応が求められます。
意向表明書には、予定している譲渡価格やスケジュール、独占交渉権の有無などが記載されていることが多いため、受領後に見送りを決断する場合は、できるだけ早めに買い手へ連絡することが望ましいでしょう。
基本合意書(MOU)締結後の場合
基本合意書(Memorandum of Understanding、MOU)を締結している場合は、より慎重な対応が必要となります。基本合意書は、M&Aにおける「仮合意書」としての性質を持ち、最終契約に向けた両者の意思確認を行う重要な書類です。
基本合意書には、法的拘束力を持つ条項と持たない条項が混在していることが一般的です。多くの場合、譲渡価格やスケジュールなどの取引条件については法的拘束力を持たせず、独占交渉権や秘密保持義務については法的拘束力を持たせる構成となっています。
独占交渉権が設定されている場合、その期間中は他の買い手との交渉が制限されます。また、デューデリジェンスにかかった費用の負担について取り決めがある場合は、見送りを決断した際に一定の金銭的負担が発生する可能性もあります。
基本合意書締結後に見送りを検討する場合は、契約書の内容を精査し、必要に応じて弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
最終契約書(DA)締結後の場合
株式譲渡契約書や事業譲渡契約書などの最終契約書(Definitive Agreement、DA)を締結した後は、原則として契約内容に従った履行が求められます。この段階での一方的な契約解除は、相手方に対する債務不履行となり、損害賠償責任を負う可能性があります。
最終契約書には通常、契約解除に関する条項が含まれており、一定の条件下での解除が認められているケースもあります。例えば、クロージング条件が満たされない場合や、重大な表明保証違反が発覚した場合などには、契約解除が認められることがあります。
また、契約書によっては、違約金を支払うことで契約を解除できる条項(いわゆる「解除料条項」)が設けられている場合もあります。最終契約書締結後に見送りを検討する場合は、契約書の内容を詳細に確認し、法的なリスクを十分に把握した上で判断する必要があるでしょう。
会社売却を見送る際の違約金・ペナルティについて

会社売却を見送る場合、状況によっては違約金やペナルティが発生する可能性があります。具体的にどのような金銭的負担が生じ得るのかを理解しておくことで、適切な判断材料とすることができます。
M&A仲介会社・アドバイザーへの支払い
M&A仲介会社やFAとの契約において、中途解約時の取り扱いがどのように定められているかは、契約書の内容によって異なります。
一般的に、着手金(リテイナーフィー)を支払っている場合、中途解約をしても返還されないケースが多いでしょう。また、契約によっては、それまでにかかった実費(出張費、資料作成費など)の精算を求められることもあります。
成功報酬型の契約であれば、売却が成立しなければ報酬は発生しないため、金銭的な負担は限定的となることが一般的です。ただし、契約内容によっては、一定の段階まで進んだ場合に中間金が発生する仕組みになっていることもあるため、契約書の確認が重要となります。
買い手への損害賠償
最終契約書を締結した後に売り手側の都合で契約を解除する場合、買い手に対して損害賠償責任を負う可能性があります。賠償すべき損害の範囲は、契約書の内容や個別の事情によって異なりますが、デューデリジェンス費用や弁護士費用などが含まれることがあります。
また、契約書に違約金条項が設けられている場合は、その条項に従った金額を支払う必要が生じます。違約金の金額は、譲渡価格の数パーセントから十数パーセント程度に設定されていることが多いものの、契約によって大きく異なります。
専門家費用の負担
売却プロセスにおいて、弁護士、公認会計士、税理士などの専門家に依頼していた場合、それまでに発生した費用については支払いが必要となります。売却を見送ったとしても、専門家がすでに提供したサービスに対する報酬は免除されないのが通常です。
会社売却を見送る際の注意点とリスク

会社売却を見送る際には、金銭的な面だけでなく、さまざまな観点からリスクを検討する必要があります。後悔のない判断をするために、以下の点を十分に考慮しておくことが重要です。
情報漏洩のリスク管理
M&Aのプロセスでは、会社の機密情報が買い手候補やアドバイザーに開示されています。売却を見送った場合でも、これらの情報が適切に管理されるよう、関係者との間で秘密保持義務が継続していることを確認しておく必要があります。
特に、複数の買い手候補に情報を開示していた場合、情報管理の重要性は一層高まります。開示した情報の範囲や、秘密保持契約の期間などを改めて確認し、必要に応じてリマインドを行うことも検討すべきでしょう。
従業員・取引先への影響
M&Aの情報が社内や取引先に漏れていた場合、売却を見送ることで新たな混乱が生じる可能性があります。「会社が売却されると聞いていたが、結局どうなったのか」という疑問や不安が広がることで、従業員のモチベーション低下や取引先との関係悪化につながるリスクがあります。
売却を見送る場合は、情報が漏れていた範囲に応じて、適切な説明を行うことが望ましいでしょう。ただし、そもそも情報を知らない関係者に対してわざわざ言及する必要はありません。状況に応じた対応が求められます。
再度売却を検討する際への影響
今回の売却を見送ったとしても、将来的に再度M&Aを検討する可能性は十分にあります。その際、過去の経緯がどのような影響を及ぼすかを考慮しておくことが大切です。
M&A業界では、売り手企業の情報や過去の交渉経緯が一定程度共有されることがあります。一度売却プロセスを中止した企業については、「なぜ前回は成立しなかったのか」という疑問を持たれることがあるため、誠実な対応を心がけておくことが、将来の選択肢を広げることにつながります。
タイミングの問題
会社売却を見送ることで、最適な売却タイミングを逃してしまうリスクも考慮する必要があります。業界の動向や自社の業績、経営者自身の年齢や健康状態など、さまざまな要因によって、会社の価値や売却のしやすさは変動します。
「今は売り時ではない」という判断が、将来的に「あの時に売却しておけばよかった」という後悔につながる可能性もゼロではありません。短期的な感情だけでなく、中長期的な視点も含めて総合的に判断することが重要でしょう。
売却を見送る前に検討すべきこと

売却を見送る最終決断をする前に、いくつかの点について改めて検討してみることをお勧めします。感情的な判断ではなく、冷静に状況を分析することで、より適切な判断ができるようになります。
売却を検討し始めた理由の再確認
そもそも、なぜ会社売却を検討し始めたのかを改めて振り返ってみましょう。後継者不在、業績の先行き不安、経営者自身の健康問題など、売却を考えた理由が解消されているのであれば、見送りは合理的な判断といえます。
一方、根本的な課題が解消されていないにもかかわらず、目先の問題(譲渡価格への不満や交渉の疲れなど)だけで見送りを決めようとしている場合は、一度立ち止まって考え直す価値があるかもしれません。
条件交渉の余地の確認
譲渡価格や条件に不満がある場合、そのまま見送りを決めるのではなく、再度交渉の余地がないか確認してみることも一案です。買い手側も、ここまで進めてきた案件を不成立にすることは避けたいと考えているケースが多いため、条件の見直しに応じる可能性は十分にあります。
M&A仲介会社やFAに相談し、どの程度の条件改善が見込めるかを探ってみることで、見送りか継続かの判断材料を増やすことができるでしょう。
他の選択肢の検討
今回の買い手との交渉を見送る場合でも、他の買い手候補を探すという選択肢は残されています。現在交渉中の相手との条件が折り合わないだけであれば、別の買い手であればより良い条件が提示される可能性もあります。
また、会社売却以外の選択肢(事業承継、MBO、株式上場など)についても、改めて検討してみる価値があるかもしれません。専門家の助言を得ながら、自社にとって最適な選択肢を模索することが重要です。
専門家への相談
売却を見送るかどうかの判断に迷っている場合は、セカンドオピニオンを得ることも有効な方法です。現在依頼しているアドバイザーとは別の専門家(弁護士、公認会計士、M&Aコンサルタントなど)に相談することで、客観的な視点からアドバイスを受けることができます。
特に、契約上の問題や法的リスクについては、弁護士の助言を得ることが望ましいでしょう。感情的になりがちな局面だからこそ、専門家の冷静な意見が判断の助けになることがあります。
売却を一旦停止して再開する場合の進め方

「今は売らないが、将来的には売却を検討したい」という場合、一旦停止という選択も考えられます。完全に見送るのではなく、状況を見ながら将来的な売却に備えるアプローチについて解説します。
一旦停止の意思表示と関係者への説明
売却プロセスを一旦停止する場合、関係者への適切な説明が重要となります。M&A仲介会社やFA、買い手候補に対しては、停止の理由と今後の方針について、できる限り丁寧に説明することが望ましいでしょう。
「完全に売却の意思がなくなった」のか、「一定期間を置いて再検討したい」のかによって、関係者の受け止め方も変わってきます。将来的な再開の可能性がある場合は、その旨を伝えておくことで、良好な関係を維持しやすくなります。
停止期間中にやっておくべきこと
売却を一旦停止している間も、将来の再開に備えた準備を進めておくことが有効です。具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
まず、今回の売却プロセスで明らかになった課題を整理し、改善に取り組むことが挙げられます。デューデリジェンスで指摘された問題点や、買い手から懸念を示された事項について、可能な範囲で対応しておくことで、次回の売却時により良い条件を引き出せる可能性が高まります。
次に、財務内容の改善や業績の向上に努めることも重要でしょう。会社の価値を高めておくことで、将来的により高い譲渡価格での売却が期待できます。
また、事業承継や出口戦略について、改めて中長期的な計画を策定しておくことも有益です。今回の経験を踏まえて、より現実的な計画を立てることができるようになるはずです。
再開時のポイント
売却を再開する際には、前回の経験を活かしながら、より効果的なアプローチを取ることができます。
前回の交渉で折り合わなかった点や、自社の課題として認識された点を踏まえ、売却条件や希望買い手の条件を見直すことが考えられます。また、前回とは異なるM&A仲介会社やFAに依頼することで、新たな買い手候補へのアプローチが可能になることもあります。
再開のタイミングについては、市場環境や自社の状況を見極めながら判断することが大切です。経営者の年齢や健康状態、業界の動向、景気の状況など、さまざまな要因を考慮して最適なタイミングを選ぶことが、売却成功への鍵となるでしょう。
会社売却の見送りを円満に進めるためのマナーと対応

売却を見送る場合でも、関係者との良好な関係を維持することが重要です。将来の選択肢を狭めないためにも、マナーを守った対応を心がけましょう。
早めの連絡を心がける
見送りを決断したら、できるだけ早く関係者に連絡することが大切です。決断を先延ばしにして相手を待たせることは、相手の時間と機会を奪うことになります。
特に、買い手候補は他の案件との比較検討を行っていることが多いため、早めに意思表示をすることで、相手が次のステップに進むことができます。
理由は正直に、ただし配慮を持って伝える
見送りの理由を伝える際は、正直に説明することが基本ですが、相手を傷つけるような言い方は避けるべきでしょう。「条件が合わなかった」「タイミングが良くなかった」など、事実を伝えつつも、相手の立場に配慮した表現を心がけることが重要です。
曖昧な態度を取ったり、嘘の理由を述べたりすることは、かえって相手の不信感を招くことになります。誠実な対応が、長期的な信頼関係の構築につながります。
感謝の気持ちを伝える
売却プロセスに関わってくれた関係者には、感謝の気持ちを伝えることも忘れないようにしましょう。M&A仲介会社やFA、買い手候補、専門家など、多くの人々が時間と労力を費やしてくれたことへの感謝を示すことで、将来的な関係維持につながります。
連絡はメールでも可、ただし重要な相手には直接連絡を
見送りの連絡は、メールで行っても問題ありません。ただし、直接面談を重ねてきた買い手候補や、長期間にわたってサポートしてくれたアドバイザーに対しては、電話や対面での説明を検討することも一案です。
相手との関係性や、それまでの交渉の深度に応じて、適切な連絡方法を選択することが望ましいでしょう。
事業譲渡における競業避止義務と売却見送りの関係

会社売却や事業譲渡を検討する際には、競業避止義務についても理解しておく必要があります。売却後に同種の事業を行うことが制限される可能性があるため、見送りの判断にも影響を与える重要な要素となります。
競業避止義務とは
競業避止義務とは、事業を譲渡した側が、譲渡後に同種の事業を行うことを禁止または制限する義務のことです。会社法第21条では、事業を譲渡した会社は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村の区域内およびこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行ってはならないと定められています。
この規定は、買い手を保護するために設けられているものです。事業を譲り受けた側が、その事業価値を適切に享受できるよう、売り手が競合する事業を行うことを制限しているのです。
競業避止義務の範囲と期間
会社法で定められた競業避止義務は、あくまでもデフォルトルールであり、当事者間の契約によって変更することが可能です。実際のM&A取引では、契約書において競業避止義務の範囲や期間を別途定めることが一般的となっています。
期間については、会社法上は20年とされていますが、契約によって5年や10年などに短縮されることも多いでしょう。また、地理的な範囲についても、全国や特定の地域に拡大されたり、逆に限定されたりすることがあります。
売却見送りと競業避止義務の考慮
売却を見送るかどうかを検討する際に、競業避止義務の存在は重要な考慮要素となり得ます。売却後に新たな事業を始めたいと考えている経営者にとっては、競業避止義務によってその選択肢が制限される可能性があるからです。
一方で、売却を見送れば競業避止義務は発生しないため、引き続き同種の事業を自由に行うことができます。ただし、事業売却の対価を得られないというデメリットとのトレードオフになります。
売却後のライフプランや事業計画を踏まえて、競業避止義務の影響を十分に検討した上で、売却を進めるか見送るかを判断することが望ましいでしょう。
会社売却見送りの断り方とメール例文

実際に売却を見送る際の連絡方法として、メールは一般的な手段です。以下に、状況別の断り方とメール例文を紹介します。
買い手候補への断りメール例文
件名:M&Aに関するご検討の御礼とご報告
○○株式会社 代表取締役 ○○様
平素より大変お世話になっております。 株式会社△△の□□でございます。
このたびは、弊社の件につきまして、長期間にわたりご検討いただき、誠にありがとうございました。
貴社からいただいたご提案について、社内で慎重に検討を重ねてまいりましたが、諸般の事情により、今回の売却については見送らせていただくことといたしました。
ご多忙の中、貴重なお時間を割いていただいたにもかかわらず、このようなご報告となりましたことを、心よりお詫び申し上げます。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
M&A仲介会社への断りメール例文
件名:売却検討の中止について
株式会社○○○○ ご担当 ○○様
平素より大変お世話になっております。 株式会社△△の□□でございます。
このたびは、弊社の売却案件につきまして、多大なるご尽力をいただき、誠にありがとうございました。
慎重に検討を重ねました結果、現時点での売却は見送ることを決断いたしました。ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません。
○○様には、これまで親身にご対応いただき、心より感謝申し上げます。将来的に再度検討する機会がございましたら、改めてご相談させていただければ幸いです。
引き続きよろしくお願い申し上げます。
断りの連絡における注意点
断りの連絡を行う際には、以下の点に注意しましょう。
まず、できるだけ早く連絡することが重要です。決断を先送りにして相手を待たせることは、相手への礼を失することになります。
次に、感謝の気持ちを忘れずに伝えることが大切です。相手が時間と労力を費やしてくれたことへの感謝を示すことで、将来的な関係維持につながります。
また、曖昧な表現は避け、明確に意思を伝えることも重要でしょう。「検討中」「まだ決まっていない」などの曖昧な返答は、相手を混乱させるだけです。
まとめ

会社売却を見送る・一旦停止するという判断は、経営者にとって大きな決断です。本記事では、売却を見送りたいと考える主な理由から、プロセスの段階ごとの対処法、違約金やリスク、そして円満な断り方まで、幅広く解説してきました。
売却を見送るかどうかの判断においては、感情的な理由だけでなく、冷静に状況を分析することが重要となります。そもそも売却を検討した理由が解消されているのか、条件交渉の余地はないのか、他の選択肢はないのかなど、多角的な視点から検討することで、後悔のない判断ができるようになるでしょう。
また、売却を見送る場合でも、関係者への誠実な対応を心がけることが大切です。将来的に再度売却を検討する可能性も考慮し、良好な関係を維持しておくことが、長期的な視点では有益となります。
会社売却は、経営者の人生において大きな転機となるイベントです。焦らず、十分な情報収集と専門家への相談を行いながら、自社にとって最適な判断を下していただければ幸いです。



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