M&Aを検討する際、仲介会社やアドバイザーとの契約形態として「専任契約」を求められるケースが少なくありません。専任契約には一定のメリットがある一方で、状況によっては「やめた方がいい」と判断すべき場面も存在します。
本記事では、M&Aにおける専任契約の仕組みやメリット・デメリットを詳しく解説するとともに、契約解除の方法や注意点についても網羅的にお伝えします。
M&A仲介会社との契約を検討している経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
M&Aにおける専任契約とは

M&Aの専任契約とは、売り手企業が特定のM&A仲介会社やアドバイザーに対して、独占的にM&A業務を委託する契約形態を指します。専任契約を締結すると、契約期間中は他のM&A仲介会社に依頼できなくなるのが一般的です。
専任契約と非専任契約の違い
M&A仲介会社との契約には、大きく分けて「専任契約」と「非専任契約」の2種類があります。
専任契約は前述のとおり、1社のみに業務を委託する契約形態です。契約期間中は他社への依頼が制限されるため、仲介会社側としては腰を据えて案件に取り組める環境が整います。
一方、非専任契約(一般契約)は、複数のM&A仲介会社に同時に依頼できる契約形態となっています。売り手としては選択肢が広がる反面、仲介会社側のコミットメントが低下する可能性も否定できません。
不動産取引における「専任媒介契約」と「一般媒介契約」の関係に近いイメージで理解すると分かりやすいでしょう。
専任契約の一般的な契約期間
M&Aの専任契約における契約期間は、6か月から12か月程度が一般的とされています。ただし、仲介会社によっては24か月といった長期の契約を求めるケースも見られます。
契約期間が長いほど仲介会社側は余裕を持って買い手探しを行えますが、売り手にとっては身動きが取りにくくなるリスクがある点に注意が必要です。契約期間の設定は、後述するように専任契約のデメリットを左右する重要な要素となります。
テール条項(テール期間)について
専任契約において見落としがちなのが「テール条項」の存在です。テール条項とは、専任契約の終了後も一定期間内に成約した場合は成功報酬を支払う義務が発生するという条項を指します。
たとえば「契約終了後12か月以内に、契約期間中に紹介を受けた買い手候補とM&Aが成立した場合は成功報酬を支払う」といった内容が盛り込まれるのが一般的です。
テール条項の期間や対象範囲は仲介会社によって異なるため、契約前に必ず確認しておくべきポイントといえます。
M&A専任契約のメリット

専任契約にはさまざまなメリットがあり、状況によっては非専任契約よりも有利に働くケースも少なくありません。ここでは、専任契約を選択する主なメリットについて解説します。
仲介会社が積極的に動いてくれる
専任契約の最大のメリットは、仲介会社が案件に対して積極的にコミットしてくれる点にあります。専任契約では他社に案件を奪われる心配がないため、仲介会社は時間とリソースをかけて買い手探しに注力できます。
非専任契約の場合、仲介会社としては「他社に先を越されるかもしれない」という不安から、案件への優先度が下がってしまう可能性も否めません。特に成功報酬型の料金体系を採用している仲介会社にとって、成約に至らなければ報酬が得られないため、確実性の高い案件を優先する傾向があるのです。
専任契約を締結することで、仲介会社との信頼関係を構築しやすくなり、質の高いサポートを受けられる可能性が高まります。
情報漏洩のリスクを抑えられる
M&Aにおいて情報管理は非常に重要な要素です。複数の仲介会社に依頼すると、それだけ多くの関係者が案件情報に触れることになり、情報漏洩のリスクが高まります。
専任契約であれば、情報の管理窓口を1社に絞れるため、秘密保持の観点からは安心感が得られます。特に従業員や取引先に知られたくない段階では、情報管理を徹底できる専任契約が望ましいケースもあるでしょう。
また、複数の仲介会社が同じ買い手候補にアプローチしてしまう「バッティング」を防げる点もメリットの一つです。バッティングが発生すると、売り手企業の印象悪化や交渉上の不利を招く恐れがあります。
窓口の一本化で効率的に進められる
M&Aのプロセスでは、仲介会社との連絡や資料のやり取りが頻繁に発生します。複数社に依頼していると、それぞれの会社からの問い合わせや進捗報告に対応する必要があり、経営者の負担が大きくなりがちです。
専任契約であれば連絡窓口が1社に限定されるため、コミュニケーションコストを大幅に削減できます。本業に集中しながらM&Aを進めたい経営者にとっては、この効率性は大きな魅力といえるでしょう。
手数料の交渉がしやすくなる場合がある
仲介会社によっては、専任契約を条件に手数料の割引や優遇を提示してくれるケースがあります。仲介会社側としても、専任契約であれば成約の確度が高まるため、手数料面で譲歩しやすくなる側面があるためです。
ただし、すべての仲介会社で手数料優遇があるわけではないため、契約前に確認しておくことをおすすめします。
M&A専任契約のデメリット

専任契約にはメリットがある一方で、看過できないデメリットも存在します。専任契約を検討する際は、以下のデメリットを十分に理解したうえで判断することが重要です。
他の仲介会社を利用できない
専任契約の最も大きなデメリットは、契約期間中に他のM&A仲介会社を利用できなくなる点です。契約した仲介会社との相性が悪かったり、期待どおりの働きをしてくれなかったりしても、原則として契約期間中は変更できません。
M&A仲介会社の実力や得意分野は会社によって大きく異なります。専任契約を締結する前に、その会社が自社の案件に適しているかどうかを慎重に見極める必要があるでしょう。
買い手候補の選択肢が狭まる可能性
1社の仲介会社だけに依頼する場合、その会社が保有するネットワークの範囲内でしか買い手候補を探せないという制約が生じます。M&A仲介会社によって強みを持つ業界や企業規模が異なるため、自社に最適な買い手を見つけられない可能性も考えられます。
複数の仲介会社に依頼すれば、より広範なネットワークにアクセスでき、最適な買い手に出会える確率が高まるでしょう。特に特殊な業種や事業内容の場合、専門性を持つ仲介会社を複数活用した方が有利になるケースもあります。
仲介会社の質に左右されやすい
専任契約では、成約に向けた活動のすべてを1社に委ねることになります。そのため、契約した仲介会社の担当者のスキルやモチベーションによって、M&Aの成否が大きく左右されてしまいます。
残念ながら、すべてのM&A仲介会社が高いサービス品質を提供しているわけではありません。中には、契約を取ることが目的になっており、契約後は積極的に動いてくれない会社も存在します。専任契約を締結する前に、その会社の実績や評判を十分に調査することが欠かせません。
契約解除が困難な場合がある
専任契約を締結した後、何らかの理由で契約を解除したいと思っても、スムーズに解除できないケースがあります。契約書に中途解約に関する規定がない場合や、解約に違約金が発生する場合などは、売り手にとって不利な状況に陥りやすいでしょう。
契約期間中にM&Aを断念したくなった場合でも、契約上の義務から逃れられないリスクがある点は、専任契約の大きなデメリットといえます。
M&Aの専任契約をやめた方がいいケース

ここまで専任契約のメリットとデメリットを見てきましたが、具体的にどのような状況で「専任契約をやめた方がいい」と判断すべきなのでしょうか。以下に該当する場合は、非専任契約を選択するか、契約内容の見直しを検討することをおすすめします。
契約期間が長すぎる場合
契約期間が2年以上など長期に設定されている場合は、専任契約を避けた方が賢明です。M&Aの成約までにかかる期間は案件によって異なりますが、一般的には6か月から1年程度とされています。
契約期間が長すぎると、仲介会社側に「時間がある」という安心感が生まれ、案件への取り組みが緩慢になるリスクがあります。また、途中で仲介会社を変更したくなっても、長期間にわたって身動きが取れなくなってしまいます。
契約期間は6か月から12か月程度にとどめ、必要に応じて更新する形が望ましいでしょう。
テール条項の期間や範囲が広すぎる場合
テール条項の期間が24か月以上に設定されていたり、対象範囲が「契約期間中に紹介を受けた相手」に限定されずに広く設定されていたりする場合は注意が必要です。
テール条項の範囲が広いと、専任契約を終了した後に別の仲介会社経由でM&Aが成立しても、前の仲介会社に成功報酬を支払う義務が発生する可能性があります。このような条項は売り手にとって非常に不利であり、契約前に交渉して修正を求めるべきです。
仲介会社の実績や評判に不安がある場合
契約を検討している仲介会社の実績が乏しかったり、インターネット上の評判が悪かったりする場合は、専任契約を避けた方が無難です。専任契約は「この会社に任せる」という強い信頼関係を前提としているため、不安要素がある状態で締結すべきではありません。
実績や評判を確認する方法としては、過去の成約事例の確認、口コミやレビューの調査、業界団体への加盟状況のチェックなどが挙げられます。可能であれば、過去に同社を利用した経営者から直接話を聞くのも有効でしょう。
担当者との相性が合わない場合
M&Aは数か月から1年以上にわたって仲介会社の担当者と密にコミュニケーションを取りながら進めるプロセスです。担当者との相性が合わないと感じる場合は、専任契約の締結を見送った方がよいでしょう。
初回の面談や提案の段階で、担当者のコミュニケーションスタイルや専門知識、対応の丁寧さなどを確認することをおすすめします。違和感を覚えた場合は、別の仲介会社を検討するか、担当者の変更が可能かどうかを相談してみてください。
複数の仲介会社を比較検討したい場合
M&A仲介会社を十分に比較検討する時間がない状態で専任契約を求められた場合は、いったん保留にすることを検討してください。専任契約を締結してしまうと、後から他社のサービス内容や手数料を比較することが難しくなります。
最低でも3社程度の仲介会社から提案を受け、サービス内容、手数料体系、担当者の質などを比較したうえで、最も信頼できる会社と専任契約を結ぶのが理想的です。
中途解約の条件が厳しい場合
契約書に中途解約に関する規定がなかったり、解約時に高額な違約金が発生する条項が盛り込まれていたりする場合は、専任契約を避けるべきです。
M&Aは経営環境の変化によって中止せざるを得ないケースもあります。そのような場合に柔軟に対応できる契約内容になっているかどうか、必ず確認しておきましょう。正当な理由がある場合は違約金なしで解約できるといった条項を盛り込むよう交渉することも一つの方法です。
M&A専任契約を結ぶ際の注意点

専任契約を結ぶことを決めた場合でも、契約内容を十分に確認し、不利な条項がないかチェックすることが重要です。ここでは、専任契約を締結する際の具体的な注意点を解説します。
契約期間は適切か確認する
前述のとおり、契約期間は長すぎず短すぎない設定が望ましいといえます。6か月から12か月程度を目安とし、期間満了時に成果を評価したうえで更新するかどうかを判断できる形にしておくと安心です。
契約期間について仲介会社と交渉する際は、「まずは6か月で契約し、進捗状況を見て更新を検討したい」といった提案をしてみるとよいでしょう。
テール条項の内容を精査する
テール条項は専任契約において見落としがちなポイントですが、後々のトラブルを防ぐためにも内容を精査しておく必要があります。
確認すべき項目としては、テール期間の長さ(一般的には6か月から12か月程度が妥当)、対象となる買い手候補の範囲(契約期間中に紹介を受けた相手に限定されているか)、テール期間中に他社経由で成約した場合の取り扱いなどが挙げられます。
テール条項の内容が不明確な場合は、仲介会社に説明を求め、必要に応じて修正を依頼してください。
中途解約の条件を明確にしておく
専任契約を締結する前に、中途解約の条件を明確にしておくことが極めて重要です。以下のような点について、契約書に明記されているか確認しましょう。
中途解約が可能な条件として、たとえば「売り手が事業継続を選択した場合」「売り手の経営環境に重大な変化があった場合」「仲介会社の義務違反があった場合」などが挙げられます。これらの条件下での解約には違約金が発生しないよう交渉することも検討してください。
また、解約を申し出てから契約が終了するまでの期間(解約予告期間)についても確認が必要です。一般的には1か月から3か月程度の予告期間が設定されていますが、長すぎる場合は交渉の余地があるでしょう。
報告義務や活動内容を契約に盛り込む
専任契約を締結した後、仲介会社が実際にどのような活動を行っているのか把握できないと不安を感じるものです。契約書に定期的な報告義務を盛り込み、活動状況を可視化できるようにしておきましょう。
たとえば「月1回以上の進捗報告を行う」「買い手候補へのアプローチ状況を書面で報告する」といった条項を追加することで、仲介会社の活動を適切にモニタリングできるようになります。報告内容に不満がある場合は、早期に改善を求めることも可能になるでしょう。
専任契約の範囲を限定する方法もある
専任契約と非専任契約の中間的な選択肢として、「専任契約の範囲を限定する」という方法も検討に値します。
たとえば、特定の業界や地域に強みを持つ仲介会社には当該分野に限って専任契約を結び、それ以外の分野は別の仲介会社に依頼するといった形です。このようにすることで、専任契約のメリットを享受しながらも、買い手候補の選択肢を広げることが可能になります。
ただし、このような契約形態を認めるかどうかは仲介会社によって異なるため、事前に相談しておく必要があります。
M&A専任契約の解除方法

すでに専任契約を締結しているものの、何らかの理由で契約を解除したいと考えている場合はどうすればよいのでしょうか。ここでは、M&A専任契約を解除するための具体的な方法と注意点を解説します。
契約書の解除条項を確認する
まず行うべきは、締結した契約書の解除条項を確認することです。契約書には、どのような場合に契約を解除できるのか、解除の手続きはどのように行うのか、解除時に違約金が発生するかどうかなどが記載されているはずです。
契約書の内容によっては、一定の条件を満たせば違約金なしで解除できる場合もあります。逆に、解除条項が厳しく設定されている場合は、慎重にアプローチする必要があるでしょう。
仲介会社との話し合いを行う
契約解除を希望する場合は、まず仲介会社に相談することをおすすめします。解除を希望する理由を率直に伝え、円満な形で契約を終了できないか話し合いましょう。
仲介会社側としても、売り手との信頼関係が崩れた状態で契約を継続するメリットはありません。誠意を持って話し合えば、契約書の規定よりも柔軟な対応をしてくれるケースも少なくないでしょう。
契約義務違反を理由に解除する
仲介会社側に契約上の義務違反がある場合は、それを理由に契約を解除できる可能性があります。たとえば、約束された頻度での報告がなされていない場合、買い手候補へのアプローチが著しく不足している場合、機密情報の取り扱いに問題がある場合などが該当します。
義務違反を理由に解除する場合は、違反の事実を証拠として残しておくことが重要です。メールや書面でのやり取りを保存し、必要に応じて弁護士に相談することをおすすめします。
契約期間の満了を待つ
契約解除が難しい場合は、契約期間の満了を待って更新しないという選択肢もあります。この場合、契約期間中は引き続き専任契約の制約を受けることになりますが、違約金などのリスクを避けられるメリットがあります。
契約期間満了後にテール条項が適用されるかどうかも確認しておきましょう。テール期間中に他社経由でM&Aを進める場合は、前の仲介会社から紹介を受けた買い手候補を避けるなどの配慮が必要です。
弁護士に相談する
契約解除をめぐって仲介会社と折り合いがつかない場合や、契約書の内容が複雑で判断が難しい場合は、M&Aに詳しい弁護士に相談することを検討してください。
弁護士のサポートを受けることで、契約書の法的な解釈を正確に把握でき、解除に向けた交渉を有利に進められる可能性が高まります。また、万が一訴訟に発展した場合でも、専門家の力を借りることで適切に対応できるでしょう。
M&A仲介会社を選ぶ際のポイント

専任契約を結ぶかどうかにかかわらず、M&Aを成功させるためには信頼できる仲介会社を選ぶことが何より重要です。ここでは、M&A仲介会社を選ぶ際に確認すべきポイントを紹介します。
実績と専門性を確認する
M&A仲介会社を選ぶ際には、まずその会社の実績を確認しましょう。年間の成約件数、成約金額のレンジ、得意とする業界や企業規模などを把握することで、自社の案件に適しているかどうかを判断できます。
特に自社と同じ業界や同規模の案件を多く手掛けている仲介会社は、業界特有の事情を理解しており、適切な買い手を見つけてくれる可能性が高いといえるでしょう。
手数料体系を比較する
M&A仲介会社の手数料体系は会社によってさまざまです。成功報酬のみの会社もあれば、着手金や月額報酬が発生する会社もあります。また、成功報酬の計算方法(レーマン方式の料率など)も会社によって異なります。
手数料の安さだけで判断するのは危険ですが、複数の会社から見積もりを取得し、サービス内容と照らし合わせて妥当性を確認することは重要です。
担当者の質を見極める
M&Aの成否は担当者の力量に大きく左右されます。会社の規模や知名度だけでなく、実際に担当する人物のスキルや人柄をしっかり見極めましょう。
初回面談では、担当者の業界知識、コミュニケーション能力、提案の具体性などをチェックしてください。質問に対して曖昧な回答しか返ってこなかったり、売り手の状況をしっかりヒアリングせずに契約を急いだりする担当者は避けた方が賢明です。
契約内容の透明性を確認する
信頼できる仲介会社は、契約内容について丁寧に説明してくれます。契約書の各条項について質問した際に、明確な回答が得られるかどうかも重要な判断材料となるでしょう。
契約内容をあいまいにしたり、質問を避けたりする仲介会社には注意が必要です。契約前に疑問点をすべて解消できる会社を選ぶことで、後々のトラブルを防げます。
まとめ

M&Aにおける専任契約は、仲介会社の積極的なコミットメントを引き出せるメリットがある一方で、契約期間中の身動きが制限されるデメリットも伴います。
専任契約を締結するかどうかは、仲介会社の実績や担当者との相性、契約条件の妥当性などを総合的に判断して決めるべきでしょう。契約期間が長すぎる場合、テール条項が不利な場合、中途解約の条件が厳しい場合などは、「専任契約はやめた方がいい」と判断することも選択肢の一つです。
すでに専任契約を締結している場合でも、契約内容によっては解除の道が開かれていることもあります。契約書を精査し、必要に応じて弁護士などの専門家に相談しながら、適切な対応を取っていただければ幸いです。
M&Aは企業の将来を左右する重大な意思決定です。仲介会社との契約についても慎重に検討し、納得のいく形でM&Aを進めてください。



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